360足球比分

概要

周辺の置換基によって単結合の回転が制限され、生じるキラル分子はアトロプ異性体と呼ばれ、その性質や合成法は中心不斉を有する分子とは大きく異なります。炭素-窒素(C-N)軸不斉ビアリール化合物は多くの生物活性物質の基本骨格ですが、アトロプ選択的合成法は非常に少ないのが現状です。特にC-Nカップリング反応によるC-N不斉軸のエナンチオ選択的構築例はほとんど報告がなく、C-N軸不斉分子の入手に必要な一般性の高い合成法の開発が期待されています。今回我々は、世界初のアトロプ選択的Chan-Lamカップリングの開発に成功し、C-N軸不斉ビアリール類の革新的合成法として確立しました。

代表的C-N結合構築反応のひとつChan-Lamカップリングは幅広い基質一般性を有しており工業的にも広く利用されていますが、アトロプ選択的カップリングは全く報告例がありませんでした。その理由の一つとして、銅触媒反応は一般的に嵩高い基質のクロスカップリングを苦手としており、回転が制限されたC-N軸のカップリングによる構築は困難を極めます。我々はこの欠点を克服する手法として、二酸化マンガン(MnO2)を添加することでその立体障害が原因で達成困難なChan-Lamカップリングを実現する反応条件を発見しました。さらに、不斉ビスオキサゾリン配位子3aと組み合わせることによりアトロプ選択性を制御し、2-ブロモベンズイミダゾール(1a)と2-メトキシ-1-ナフチルボロン酸(2a)からC-N軸不斉ビアリール類4aを高収率かつ高アトロプ選択的に合成することができました(収率94%、光学純度85% ee、図1)。この反応条件を多くの基質に適用したところ、1aに置換した臭素が高アトロプ選択性発現に極めて重要な役割を果たしているものの、多くのイミダゾールやボロン酸誘導体のC-Nカップリングへと展開することができました。

01.jpg

再結晶により4aの光学純度を>99% eeまで上昇させた後、光学純度を維持したまま臭素原子を多様な官能基へと変換できることも実証しています(図2)。変換反応によって得られた4b-eは、今回我々が開発したアトロプ選択的Chan-Lamカップリングを用いても、高立体選択的に合成することは難しいのですが、4aの変換反応によって合成することができるわけです。

02.jpg

本論文がChemical Communications誌に掲載された直後、我々の研究と類似の論文がアーヘン工科大学のPatureauらによってChemistry A European Journal誌に掲載されました(https://doi.org/10.1002/chem.202304378)。我々の認識では、偶然にも全く異なる研究室でほぼ同時期に反応が発見され、類似の研究が行われていました。我々の論文とPatureauらの両論文が無事にアクセプトされたことはお互いに幸運でした。

本論文はChemical Communications誌のInside front coverに採用されました。我々が開発した世界初の不斉Chan-Lamカップリングによって「従来法では合成困難なC-N軸不斉を有する薬効成分に光が当たる」という意味が込められています(図2)。

03.jpg

本研究は、大阪大学、Baruch S. Blumberg Instituteとの共同で実施した研究です。実験を担当してくれた石田萌華さん(岐阜薬大)、足立莉奈さん(阪大院薬)、小林和樹さん(阪大院薬)、山本裕希子さん(岐阜薬大)、河原千夏さん(岐阜薬大)に厚く御礼申し上げます。また、折に触れて的確なアドバイスを下さいました赤井周司先生(阪大院薬)、Patrick Y. S. Lam先生(Baruch S. Blumberg Institute)に心より感謝申し上げます。

本研究成果のポイント

  • 世界初の不斉Chan-Lamカップリング
  • 二酸化マンガンの添加によって立体的にカップリング困難な反応が劇的に加速
  • ビスオキサゾリン配位子が効率的に不斉を誘起

論文情報

  • 雑誌名Chemical Communications
  • 論文名:First atroposelective Chan-Lam coupling for the synthesis of C-N linked biaryls
  • 著者:Moeka Ishida, Rina Adachi, Kazuki Kobayashi, Yukiko Yamamoto, Chinatsu Kawahara, Tsuyoshi Yamada, Hiroshi Aoyama, Kyohei Kanomata, Shuji Akai, Patrick Y. S. Lam, Hironao Sajiki, Takashi Ikawa
  • 巻号番号:60巻、6号
  • ページ:678-681
  • DOI番号:10.1039/d3cc05447k

研究室HP

https://www.gifu-pu.ac.jp/lab/yakuhin/index.html